
特注什器の製作において、最も多く寄せられる課題のひとつが「予算内に収めるためのコストダウン(CD)」です。
店舗のコンセプトやブランドイメージを体現するデザイン性は妥協したくない。けれど、予算には上限がある。
そんな時に有効なのが、単なるコストダウンではなく「VE(バリューエンジニアリング)」という設計手法です。
安い材料を使って質を下げる(手抜きをする)のではなく、お客様の目に見える価値(美しさ・機能)は維持したまま、見えない部分の仕様や作り方を工夫して無駄なコストを削る知恵と工夫をまとめてご紹介します。
目次
「規格サイズ」から逆算する寸法の最適化
什器のコストを劇的に下げる最大のポイントは、「材料の規格サイズ」を知ることです。
什器製作で使用するメラミン化粧板やポリ合板、ベニヤ板などは、「尺(1尺=約303mm)」を基準とした以下の2つの規格サイズで作られています。
- サブロク(3×6板): 横910mm × 高さ1820mm
- シハチ(4×8板) : 横1230mm × 高さ2450mm
例えば「W1000×D500×H800」の展示台を作る場合、サブロク板には収まらないためひと回り大きいシハチ板を使用することになります。
しかし、使い勝手に影響がない範囲でサイズを「W900×D450×H800」にわずかに調整するだけで、サブロク板から無駄なく部材を切り出すことができ、材料費を約4割も抑えることが可能になります。
適材適所の「素材(マテリアル)使い分け」
素材ごとの特性と価格差を理解し、見え方や用途に合わせて切り替える、あるいは代替品に変更するのも什器設計の王道VEです。
メラミン化粧板とポリ合板の組み合わせ(ポリ・メラ仕上げ)
| 比較項目 | メラミン化粧板 | ポリ合板 |
| 表面の強度 | 非常に硬い(傷・汚れ・熱に強い) | キズに弱い(薬品でシミになることも) |
| コスト | 高い(下貼り用の合板も別途必要) | メラミンより約4割安い |
| 適した使用箇所 | 天板、カウンターの天面、脚の外側 | 什器の内部、側面、脚の内側や裏側 |
お客様の手や荷物が触れる天板には高耐久な「メラミン」を使用し、目立たない内部や裏側にはコストが安い「ポリ合板」を使用することで、高い品質を保ちながらコストダウンを両立させます。
代替素材・同等規格品への変更
例えば、ソファやスツールなどを製作する際、高価な本革から、見た目や質感が近くメンテナンス性にも優れた高品質な「PVCレザー(フェイクレザー)」に変更するだけで大幅なコストダウンが可能です。
また、海外製の高価なパーツを、デザインイメージを崩さない国内の規格品に変更することで、コストだけでなく納期の短縮にも繋がります。
さらに、色選びも重要なポイントです。
こだわりの「特注色」や流通量の少ない柄を指定すると材料費が高騰するため、目立たない部分には、一般に流通量が多く安価な「白ポリ(白色のポリ合板)」などの定番色を積極的に採用し、全く見えない内部はベニヤ素地のままにすることで、費用を大きく抑えられます。
構造・製作工程の見直し
細部のディテールや製作工程を図面段階で見直すことも、重要なコストダウンに繋がります。
製作ロット数による単価調整
特注什器は、1台だけ作るのと複数台まとめて作るのとでは、1台あたりの製作コストが大きく変わります。
例えば、各店舗でバラバラに発注するのではなく、必要な台数をあらかじめまとめて製作(ロット生産)することで、材料の歩留まりや職人の加工効率が上がり、単価を大幅に抑えることができます。
複雑な曲面(R加工)の直線化
丸みを帯びたデザイン(R加工)は、木工でも金物でも製作の手間(型枠作りや特殊な曲げ加工など)が跳ね上がります。
空間の雰囲気を損なわない範囲で、脚部や天板の構造を直線的でシンプルなものに変更することで、職人の加工費をグッと抑えることができます。
不要な市販パーツの削減と設計による代替
什器に取り付ける既製品の金物や樹脂パーツを極力減らし、本体の設計や加工でその機能を補うことでパーツ代を削減できます。
例えば、市販の「配線孔キャップ」を使う代わりに、天板に直接スリット穴を開け、背面に電源タップの受け皿を作るといった工夫です。
これにより、パーツ代が浮くだけでなく、キャップが悪目立ちしたり紛失したりするリスクも防げます。
搬入・運送コストを抑える「分割(ノックダウン)構造」
大型の壁面什器などを完成品のままトラックに乗せると、荷台の空間を無駄に占有して輸送費が高騰します。
設計段階で現場にて組み立てる「分割(ノックダウン)構造」にしておくことで、コンパクトに梱包でき、遠方への輸送費や搬入時の人件費を大幅に抑えることが可能です。
※注意点: 分割構造は現場での組立費が別途発生します。「完成品のまま運ぶ運賃」と「分割時の現場組立費」を比較し、トータルコストが安くなる方を選ぶ見極めが重要です。
事前のアッセンブリー(組立・検品)による現場費用の削減
設計段階で「現場での納まり」を考慮し、出荷前に工場で事前に組み立てと検品を行っておくことで、現場での想定外の手直しや追加加工を防ぎます。
現場での作業時間を最小限に抑えることが、結果的にトータルの施工費用を抑制することに直結します。
VE以外のコストダウン(CD)
設計上の工夫(VE)とは別に、什器の用途やライフサイクルに合わせて物理的にアプローチを変えるコストダウン手法も存在します。
これらを組み合わせることで、全体の予算をさらに最適化できます。
- 中古什器・既製品の活用
お客様の目に入らないバックヤードやストックルームの棚には、特注ではなくカタログの既製品や中古商材を活用して初期費用を削ります。 - ダンボール(紙製)什器の導入
ポップアップショップなどの短期イベントでは、軽量なダンボール什器を導入することで、材料費だけでなく運送費や設置・廃棄にかかるコストも大幅に削減できます。 - 既存什器のリニューアル(リメイク)
居抜き物件や店舗改装の際、前のテナントが残したカウンターや棚の骨格をそのまま活かし、表面に化粧フィルム(ダイノックシートなど)を貼って新品同様に見せる手法です。
一から造作する費用を丸ごとカットできます。
生成AIの活用による「提案コスト」の削減
昨今のAI技術の進化によって、これまで外部業者に頼っていたパース図(完成予想図)やイメージ図、提案資料などを、発注側の社内で手軽に作成・共有できるようになりました。
実はこの「イメージの内製化」も、これからの時代におけるコスト削減の大きな一手となります。
製作会社に対して「ゼロからの大掛かりなデザイン提案」や「複数パターンの3Dパース作成」を要求すると、お見積書に「デザイン費・提案代」という明確な項目がなくても、実際にはその作業工数分が「製品代」に目に見えない形で上乗せされているケースが少なくありません。
- イメージ図やコンセプトはAIを活用して自社で用意する
- 実際の製作に向けた緻密な「設計図(強度や納まりの計算)」からプロに任せる
このように自社で行う作業とプロに任せる領域を賢く切り分ける工夫が、隠れた提案コストをカットし、より適正価格での什器製作に繋がります。
まとめ:目的に合わせたメリハリのある選択を
コストダウンの成功の秘訣は、「どこに費用をかけ、どこを削るか」のメリハリをつけることです。
特に店舗の開業コストにおいては、内装や什器の初期費用を賢く抑えることで、その分の資金をオープン後のプロモーションや、お客様の満足度を高める施策に集中投資でき、より安定した店舗運営に活かすことができます。
例えば、長く美しく使うメインの特注什器には設計段階でのVEを取り入れ、裏方や短期利用のものには中古品やダンボール什器を賢く併用するなど、目的と予算に応じた引き算を行うことが、理想の空間づくりへと繋がります。
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